- 2023.11.24
4輪インホイールモーター特有のサスペンションの悩み(名古屋大学 FEM)
はじめに
名古屋大学フォーミュラチームFEMでは、4輪インホイールモーターを採用しています。欧州では上位チームの多くが採用しているにも関わらず、日本ではFEMが唯一採用しているレイアウトである4輪インホイールモーターは、タイヤ4つそれぞれにモーターを搭載し、圧倒的な動力性能と運動性能を達成することができます。
しかし、実はサスペンション泣かせなレイアウトでもあります。ここでは、インホイールモーターを搭載する上で気にしている点をいくつか紹介できればと思います。
4輪インホイールモーター搭載の難しさ
モーターとアーム、ホイールとの干渉
まずは、モーターとアーム、ホイールの干渉です。ロール系ジオメトリ、キングピン系ジオメトリを決定するなかでアーム配置はとても重要ですが、インホイールモーターでは大きな制約を課せられることになります。それはサスペンションとしての設計目標を諦めざるを得ないほど大きな制約条件になり得ます。
例えば操舵力の低減のためにキングピン角を立てたり、スクラブ半径の最小化を目指す場合、ドライブシャフトを使用する場合はアームとホイールの干渉やフレーム取り付け点に注意します。対して、インホイールモーターを採用した場合、アームとモーター、タイロッドとモーターの取り付け点にも注意しなければなりません。
結果として、キャスター角やキャスタートレールに影響を及ぼし、転舵時の対車キャンバー角に制限が発生したり、バンプトーがほぼ一意に決定されたり、アンチダイブ、アンチリフトの制限に繋がります。(上記はあくまで一例なので、設計上の優先順位や基準は各大学で異なると思います。)
ホイールを13インチから10インチへと変更した際も、バネ下のレイアウトに苦労する例をいくつも耳にしますが、モーターを搭載した場合はさらに苦しめられることになるのです。
図 1 2020年度製作マシンの一部 モーターケースとアームが干渉している
この問題の解決にはサスペンションジオメトリ以外にいくつかのアプローチがあります。その一つとしてあげられるのがモーターの選定や、モーターケースの小径化です。学生フォーミュラにおいてパワーユニットの変更はそう簡単に行えるものではないですが、インホイールモーターを新規に導入する際の選定基準としてひとつの目安になると思います。
名古屋大学含めインホイールモーターを採用しているチームのほとんどが海外製のモーターを使用し、それ以外のチームでは軽量コンパクトさをより求めてモーターを自作(?!)しており、現状ではモーターの選択肢は幅広いとは言えません。しかし、2022年度大会ではヤマハがインホイール用のモーターの展示も行っていましたから、数年後には国内のサプライヤーも現れることを期待したいと思います。
バネ下重量の増加
次に課題になるのは、バネ下重量の増加です。名古屋大学は、2019年度大会のデザインファイナルでこの点についての質問をいただきました。ここで当時の回答を引用させていただきます。
Q : 走行中に各輪の接地圧変動がありますが、これとバネ上の上下加速度の相関性をどのように考えていますか?
A : 相関性に関して、前後輪でそれぞれ2自由度を考慮した4自由度モデルを作成し、評価を行いました。その結果、バネ下重量の増加に伴い、バネ上の共振周波数が低下をします。それに伴い、バネ下の2つある共振周波数のうち低い方が高周波側に、高い方が低周波側にシフトしていきます。この際、バネ下の高い方の共振周波数はバネ上の共振周波数と似たような値をとります。従って、バネ下重量の増加に伴って小さな周波数の路面入力に対して接地荷重変動が大きくなり、姿勢変化も大きくなります。
これに関しては基本的な力学と、制御工学の知識があれば簡単に理解が出来ると思いますし、各大学でバネ下重量を考える際に同様のことは頭に入っていると思います。当時の名古屋大学のバネ下重量の増加に対する答えは、
「スキッドパッドにおける接地荷重変動を過去の走行データを基にシミュレーションし4輪インホイールモーター以前のマシンと比較したところ、ほぼ微少な減少にとどまった。」
というものでした。また、これは前後輪4自由度モデルを用いた場合ですので、4輪全てを再現したモデル等を使用し、さらにトルクベクタリングを考慮すると、同様の車両諸元と仮定した場合、スキッドパッドにおいて4輪インホイールモーターが有利ということになります。
図 2 2019年度大会デザインファイナルの様子
まとめ
以上のように、サスペンション初心者が考えるだけでもインホイールモーターへのコンバートの問題は多岐にわたります。また、このレイアウトの真価を十二分に発揮するにはさらに4輪独立制御の成熟と、制御とサスペンションの緻密な連携が必要になってきます。
サスペンションでも制御でも接地荷重変動やらタイヤが発生させる力やら似たようなことを考えるので当然ですが、やはりそれぞれやることが大きく異なるため足並みをそろえるのが難しい側面もあります。ですが、EV初の総合優勝のためには不可欠と考え、日々挑戦していきたいと思います。
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